第1回 施設選びのコツ ~トップの考え方が一番大切~
富士福祉経営マネジメント株式会社
福祉経営コンサルティング担当 中澤 司
私は、富士福祉経営マネジメント株式会社の福祉経営コンサルティング部門「Fuji Welfare Management」を担当しています中澤司と申します。また弊社には、この高齢者住宅紹介部門「La Vita」(ラ・ヴィータ)の2部門があります。
私は有料老人ホームの企画・営業・運営・施設長を経験し、その後、いくつかの有料老人ホーム立ち上げにも参加させて頂きました。現在は、福祉経営コンサルティングとして既存の有料老人ホーム等の経営指導を行っています。
そのような経緯から、実際に経験してきた以下の2つの視点から「施設選びのコツ」をお伝えしていきたいと思います。
1.ご入居者様の目線に立った施設選び
ご入居希望者様やご家族様とお話して感じる事は、施設に今後の人生を託する切実な思いや、理想的な生活像を描き、願っている思いをここなら実現できると決断されてご入居を決められる方、ご入居されてから理想と現実の差を感じているご入居者様の思いがあり、これらの声を聞いて思うことは、ご入居者様側目線に立って施設を選ぶことの大切さです。
2.施設側目線に立った施設選び
有料老人ホーム立ち上げから施設長までを経験し、また、いくつかの施設の経営指導を行ってきた中で、ご入居者様に対して理想的なサービスの提供と、収入に対して人件費・経費のかけられる限界や、離職率の多い業界での教育の難しさ等、現実の狭間で努力している施設側の目線に立って施設を選ぶことの必要性です。
この2つの視点を基本として、経験を踏まえながら制度や統計も取り入れて、シリーズでお伝えしていきます。
私共はなぜ「ラ・ヴィータ」を開設しようと思ったかは、ご入居希望者様側と施設側の気持ちが分かり、公平中立な立場で、文字には表れない部分まで適正に評価して、良い施設とご入居希望者様とをつなぐ役割を担いたい。最後の人生の1ページを飾るのに最良の選択をして、最高の人生にして頂きたい。そんなお手伝いをしたい思いからです。
「トップの考え方が一番大切」。これは私が有料老人ホーム等の経営指導に行って、どこにでも一番に話す持論です。
以前、九州に有料老人ホームを作りまして、その営業をしている時に、ある有料老人ホーム紹介センターの社長様へ「社長様は九州の数多くの有料老人ホームを見て来られて、自分が入りたいと思う一番良い施設はどこですか。」と尋ねたことがあります。その社長様は「一番は、金額や居室の広さ、共用部分の豪華さ、食事の内容、立地環境でもないのです。一番はトップ(ホーム長)の考え方です。」と話されました。それはなぜですかと聞きますと、「自分の母親がそういう年齢になって来ましたので、自分の母親を入れるにはどこが良いかという目線で見てきました。母親はやさしくて気が弱く、『これどうですか』と促されると、嫌でもニコニコ笑いながら『良いですね』と言って従ってしまう。そんな生活が死ぬまで続いたら母親は不幸です。口には出せなくてもご入居者様の潜在的なニーズまで理解してくれる教育こそ大切で、それにはトップの考え方によります。必然的に採用もそういう職員が集まり、目指す方向性がご入居者様目線になります。これはトップ次第なのです。」と話されました。私はとても共感できますし、まったくその通りだと思っています。
もうひとつ例を挙げます。イギリスの老人ホームで、ある女性の死後、1通の手紙が見つかりました。(そのままの引用です。)
看護師さん
あなたはいったい何を見ているの?
あなたが私を見ているとき、あなたは頭を働かせているのかしら・・・。
気難しい年老いたおばあさん。
それほど賢くなく、とりえがあるわけでもない。
老眼で。
食べるものをぽたぽた落とし、あなたが大声で
「もっときれいに食べなさい」と言っても、そのようにできないし、
あなたのすることにも気づかずに、靴や靴下をなくしてしまうのは、いつものこと。
食事も入浴も
私が好きか嫌いかは関係なく
あなたの意のままに、長い一日を過ごしている。
あなたはそんなふうに私のことを考えているのではないですか。
私をそんなふうに見ているのではないですか。
そうだとしたら、あなたは私を見てはいないのです。
もっとよく目を開いて、看護師さん。
ここに黙って座り、
あなたの言い付け通りに、あなたの意のままに食べている私が誰だか、教えてあげましょう。
10歳の時、両親や兄弟姉妹に愛情をいっぱい注がれながら暮らしている少女です。
16歳、愛する人とめぐり合えることを夢見ています。
20歳になって花嫁となり、私の心は躍っています。結婚式での永遠の誓いも覚えています。
25歳、安らぎと楽しい家庭を必要とする赤ちゃんが生まれました。
30歳、子供達は、日々成長していきますが、しっかりとした絆で結ばれています。
40歳、子供達は大きくなり、巣立っていきます。
しかし、夫が私のかたわらについて見守ってくれているので、悲しくはありません。
50歳、小さな赤ん坊達が、私のひざの上で遊んでいます。
夫と私は子供達と過ごした楽しかった日々を味わっています。
そして夫の死、
希望のない日々が続きます。
将来のことを考えると、恐ろしさで震えおののきます。
私の子供達は自分達のことで忙しく、私はたった一人で、過ぎ去った日々の楽しかった思い出や、
愛に包まれていた時のことを思い起こしています。
私はもう年を取りました。
自然は残酷です・・・。
老いた者は役立たずと、あざ笑い、からかっているようです。
体はぼろぼろになり、栄光も気力もなく、
以前の暖かい心は、まるで石のようになってしまいました。
でもね看護師さん、
この老いたしかばねの奥にも
まだ小さな少女が住んでいるのです。
そして、この打ちひしがれた私の心もときめくことがあるのです。
楽しかったこと、悲しかったことを思い起こし・・・
愛することのできる人生を生きているのです。
人生は本当に短い、
本当に早く過ぎ去ります。
そして今、
私は永遠に続くものはない、というありのままの真実を、受け入れています。
ですから看護師さん、
もっとよく目を開いて、私のことをよく見て下さい。
気難しい年老いたおばあさんではなく、
もっとよく心を寄せて
この私を見て下さい。
とても悲しい手紙です。この手紙の看護師さんは、きっと何らかの事情や理由があったのだと思います。福祉を志す者は、眼を覆いたくなる内容ですので、悪いのはこの看護師さんだけで、すべて解決しようとします。しかし、それだけではないのです。1つは、当然スキルの問題です。対象者への身体的ケアと、ケアを受けなければならない精神的苦痛へのケアのスキルが低いと、こうような問題が生じます。もう1つは、看護師さんにスキルがあっても時間を掛けられない勤務状況下の中で、眼をつぶらざる得ない体制であるという事が考えられます。
また、1つめの職員個人のスキルは、個人だけの問題でしょうか。トップの採用や教育の問題はないでしょうか。2つめの職員が眼をつぶらざる得ない体制、すなわちシステムの問題は、トップがどこに重きを置いて施設経営をしているかで、ご入居者様・職員共に泣いている状況が生まれるのです。 私はトップの考え方、すなわち施設の方針を決める「理念」が大切であると思います。その「理念」が、営業トークだけの薄っぺらなものではなく、トップが先頭に立ち、どこまで「理念」を具現化したサービスを、全職員に落とし込めているかが、その施設に今後の人生を託す上で、一番大切であると考えます。精神的な苦痛は、物質的な苦痛以上の大きな問題ではないでしょうか。